屏風は、用いられる場に応じて、さまざまな意味や機能が与えられ、 それにふさわしい飾られ方や使われ方が選ばれました。 たとえば、婚礼の際に、新郎新婦の背後を飾る金屏風は、 婚礼の場を特別で晴れやかな空間に演出するという役割を果たしていると言えるでしょう。 一方、葬送などでは、亡くなった人の枕元に逆さに屏風を立てることがしばしばおこなわれましたが、 これも、場のしきたりや慣習にしたがった屏風の使い方の一例です。 東照宮縁起絵巻(とうしょうぐうえんぎえまき)に描かれている「白絵(しろえ)屏風」もそうした例の一つで、 貴族や有力武家の出産の場を囲む特殊な屏風でした。 鶴や亀などのおめでたい図柄が白い地に白色で描かれており、出産に向けて特別に新調されたものなのです。
博物館や美術館で屏風を展示するとき、場合によってはフラットな平面にして壁に固定することもありますが、 多くは、交互に折り曲げてジグザグにして展示します。 ただ、調度品として使用される際には、必ずしもこのような立て方をしていたわけではないようです。 絵に描かれた屏風を見ると、コの字形やL字形に立てている例も少なくありません。 逆に言えば、部屋の大きさに合わせ、比較的自由に折り曲げられる便利さも、 屏風の魅力の一つと言えるでしょう。 ただ、空間を演出するようなフォーマルな場面では、交互に折り曲げる立て方が正式だったようです。
屏風は、折り曲げないと自立しない調度品です。 当然ですが、まっすぐに広げると倒れてしまいます。 屏風の立て方は、ある程度自由でしたが、屏風を最初に広げるときは、もっとも屏風が不安定になるので、 一般的な広げる順序がありました。 まず、屏風を安定させるために、屏風の中央(六曲屏風なら、三・四扇部分)を広げます。 その上で、右側(一・二扇)や左側(五・六扇)を広げていくのです。 江戸時代には、このような屏風を広げる順序や、立てたときの屏風の凹凸を計算して、 構図を決めたとみられる画家が何人かいました。 和歌山県の南部の寺院を訪れ、多くの作品をのこした長沢芦雪(ながさわろせつ)も、 そうしたことに意図的だった画家の一人です。
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