江戸時代に加賀藩(現在の石川県)を統治していた、前田家の藩主が収集した多くの貴重な古典籍は、「尊経閣文庫(そんけいかくぶんこ)」と呼ばれる図書館(東京都目黒区駒場)に収蔵されている。近代の前田家16代当主・利為(としなり、1885〜1942)は、その中から重要なものを選んで一連の複製、すなわち「尊経閣叢刊(そんけいかくそうかん)」を順次制作し、解説を付けて刊行・頒布した。利為は、貴重な蔵書を世に広めるためだけでなく、関東大震災のような不慮の災害による文化財の損失に備えるために、財団法人を設置して、この複製の刊行を始めたという。
大正15年(1926)6月から、日中・太平洋戦争の時期をはさんで、昭和27年(1952)7月に中絶するまで、67種におよぶ和漢の典籍が複製されたが、その中には物資の乏しい状況にもかかわらず、当時の印刷技術の最高水準に達するような精巧なものもあり、また紀州−和歌山県の歴史・文化に関わる資料も多く含まれる。
このたびの企画展では、当館が所蔵する「尊経閣叢刊」54種を初めて全てそろって公開するとともに、当館所蔵の実物資料とその複製を対比展示することなども行い、一般的に価値を低く見られがちな複製(レプリカ)の果たす役割について考えてみたい。
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