作品紹介


 

①所蔵者不明の阿弥陀如来坐像(和歌山県立博物館保管)


①所蔵者不明の阿弥陀如来坐像

 平成22年から23年春にかけて、和歌山県では文化財の盗難被害が多発しました。犯人逮捕後、証拠品として押収・提供された文化財のうち、所蔵者の判明したものについては順次返却されましたが、その後も所有者不明のままの資料が一定量残されました。

 和歌山県立博物館では、こうした経緯をもつ文化財43点を和歌山県警察から引き継ぎ、保管しています。この阿弥陀如来坐像もそれらの一つです。和歌山県の歴史を伝える貴重な文化財を、一つでも多く元の場所に戻すため、全てを展示公開し、所蔵者につながる関連情報の収集につとめます。


所蔵者不明の文化財(県立博物館保管)


②折り取られた牛馬童子像の頭部(田辺市教育委員会保管)


②折り取られた牛馬童子像の頭部

 田辺市中辺路町の山中、熊野古道沿いの箸折峠(はしおりとうげ)付近に、牛馬童子と名づけられた石像があります。牛と馬の背中に人物がまたがった不思議な姿で、熊野古道のシンボルとして親しまれてきました。

 2008年6月18日、牛馬童子像の頭部が折り取られ、失われていることが分かりました。ただちに約200名の市民や市職員の方々によって、失われた頭部の捜索が行われましたが見つからず、10月には新たな頭部が作られました。

 2年が過ぎた2010年8月16日。約10㎞離れたバス停のベンチに、切断された牛馬童子像の頭部が置かれているのが発見されました。ただ、破損の恐れがあるため、もう、元の体部には戻せません。とても痛々しい姿ですが、文化財を守ることの大切さを伝えるため、今回、展示公開します。


③林ヶ峰観音寺の菩薩形坐像とその複製


③林ヶ峰観音寺の菩薩形坐像とその複製

 紀の川市平野の林ヶ峰(はいがみね)観音寺に伝わった平安時代の菩薩形坐像(左)と、県立和歌山工業高等学校産業デザイン課の実習の一環で作製した複製(右)です。

 大変貴重な文化財である平安時代の菩薩形坐像は、普段は無人の堂内に安置されていたため、現在、県立博物館で寄託を受け、保管しています。ただし、地域の方々の信仰の場を維持するために、代わりとなる複製を堂内に安置しています。

 文化財と、祈りの場の両方を守るための取組をご紹介するため、実物と複製の両方を展示します。


展示キット「未来へ伝える私たちの歴史-文化財を守るために-」について


牛馬童子像のさわれるレプリカ


さわって読む図録(表紙)


盗まれた際に破損した仏像の脚部(左)とレプリカ

 県立博物館と、和歌山県立博物館施設活性化事業実行委員会では、企画展の開催に合わせて、文化財の破壊や盗難の実態と、その防止策について啓発するための、貸し出し可能な展示キットを作製し、公開します。

 これは、県立和歌山工業高等学校との連携により作製した、原寸大のさわれるレプリカ3点(①牛馬童子像の本体、②牛馬童子像の折り取られた頭部、③盗まれた際に破損した仏像の脚部)と、解説パネル(縦1030㎜×横728㎜)4枚、そして県立和歌山盲学校との連携により作製した、特殊な盛り上げ印刷による図と点字を組み込んだ、さわって読む図録からなるものです。

 この展示キットは、さわれるレプリカとさわって読む図録によって、視覚に障害のある人にもご利用していただきやすいように作製しています。そして誰もがさわれることで、見るだけでは得られない、より多くの情報を感じ取っていただける展示となっています。

 全国に類例のない、博物館における展示のユニバーサルデザイン化のための取組です。


県立和歌山工業高等学校での
作業のようす