主な作品の紹介


 

1章 仮面と儀礼―聖と俗をつなぐもの―

    翁・黒色尉・父尉・延命冠者

室町時代 慈尊院(翁・延命冠者)・上花園神社(黒色尉・父尉)蔵 

 猿楽(能・狂言)の翁舞は式三番ともよばれ、現行のものでは翁とそれをもどく(滑稽にまねる)黒色尉(三番叟)のみだが、かつてはさらに父尉と延命冠者によるパートが含まれていた。この四面は現在は九度山町・勝利寺(慈尊院保管)とかつらぎ町・上花園神社に分蔵されるが、作風、用材、彩色が一致し、本来一具であったと考えられる。大和猿楽によって担われた神々による祝言の舞が、高野山麓で行われていたことを示す

 

2章 和歌祭仮面群 面掛行列所用品

    室町~江戸時代 紀州東照宮蔵 和歌山県指定文化財 

 紀州東照宮の春の例大祭・和歌祭において、神輿の前を歩く練り物の一つ、面掛(百面とも)において使用される仮面。現状98面が確認され(うち文化財指定は96面)、鎌倉時代から近代までの仮面からなる。江戸時代の記録では行列の先頭に翁や黒色尉など神を表す仮面が先頭を歩き、これらの群行が、幸を振りまく神や精霊の集団を表しているものと想定される。写真はそのうちの笑尉で、面裏に「方廣作」と記される。

 

3章 仮面と法楽―神へ捧げる仮面芸能―

    猿楽面

  室町~桃山時代 河根丹生神社蔵 九度山町指定文化財 

 高野山麓、九度山町河根の河根丹生神社伝来猿楽面。写真の獅子口は面裏に刻銘で「ヤマト/七郎作」と記され、15世紀末ごろに現在の奈良県吉野郡大淀町で活動した檜垣本七郎の作とわかる。河根丹生神社と隣村の丹生川丹生神社では、この檜垣本猿楽(吉野衆)が定例の神事能を行う権利を有していた。ほかに面裏に「ヨシフクヰンキシン(吉福院寄進)」と記される仮面もあり、芸能の催行には高野山僧が関与していた。

 

4章 仮面の洗練―継承される能面の美―

    能面(紀伊徳川家伝来)

  室町~桃山時代 個人蔵 

 紀伊徳川家に伝来した能面11面で、徳川家康の所蔵品が、その子である徳川頼宣へと受け継がれたもの。附属する御分物目録には猩々・大喝食・痩女が駿河にて家康手ずから拝領したもの、深井・河津・小尉・小飛出・小癋見が御分物とする。徳川頼宣は能の名手であり、紀伊入国に際しても多くの能役者を駿河より伴った。写真は上品な老人の顔を現した小尉で、室町時代後期の作。