梅、春の消息

  偕楽園焼  赤楽捻梅香合  和歌山県立博物館蔵

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    梅はバラ科の落葉高木で、中国原産。日本には奈良時代以前に渡来した。
    
まだ寒い時期に他の花にさきがけて花をつけるため、「春の消息」などと呼ばれ、
   おめでたい花とみなされた。
    また、中国の杭州にある西湖のほとりに隠棲した詩人・林和靖が梅を愛した
   ことは有名で、梅は隠逸や文人を象徴する植物ともされる。
    日本でも絵画や文学の中に登場する梅には、これらのイメージが投影されて
   いる。
    捻梅とは、梅の花の五つの花弁をねじったようなデザインの紋所のことで、
   この香合は、その捻梅の形をそのまま用いたもの。




サクラ咲く吉野

  芳野図  矢倉安安筆  和歌山県立博物館蔵

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     桜の名所である奈良県の吉野を描いた図巻。
     紀ノ川の上流にあたる吉野川を北側から俯瞰した構図で、
    吉野川をさかのぼるようにモチーフが配されている。
     吉野の桜は古くから有名で、和歌にもしばしば詠まれたため、
    「吉野」は桜の代名詞となった。
     また、吉野は杉や檜などの木材資源の産地でもあり、伐った
    材木は筏にして、吉野川を流して運ばれた。
    この絵にはその筏流しの様子も描かれている。




朝顔、連なる花と実

  重要文化財  朝顔図襖  長沢芦雪筆  草堂寺蔵

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    朝顔などの蔓性の植物は、花や実が連なって生えることから、子孫繁栄や
   世代の連続を象徴する。
    また、中国でも、蔓を意味する「蔓」・「帯」が「万代」と同音であるため、やはり
   世代の永続を意味するおめでたい主題であった。
    この絵は、円山応挙に学んだ長沢芦雪という画家が描いた襖。
    天明7年(1787)に
白浜町の草堂寺を訪れたときに描かれたものと考えられる。
   素早い筆致で描いているが、花びらの描写は的確で、濃い墨が朝顔の深い
   藍色を思わせて効果的である。
   蔓が画面から一度フレームアウトする点に、画面の広がりや対角線への意識も
   感じられる。




蘭、芳香を放つ君子

 墨蘭図 祇園南海筆  和歌山県立博物館蔵

百花繚乱

 十二客図 岡本緑邨筆  和歌山県立博物館蔵

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 日本や中国の絵画や文学に登場する蘭は、多くが春蘭。
春蘭はラン科の常緑多年草で、早春に葉の間から花茎を伸ばし、淡紅緑色の花をつける。
 岩肌などの人目につかない場所に生えながらも、芳しい香りを放ってその存在を知らせることから、在野にあっても高潔さを失わない君子を象徴する植物とみなされた。
 この絵では、右上の詩に「幽谷誰知霜雪裏 美人一笑吐清香」とあり、蘭の香りを女性の微笑にたとえている。
 筆者の祇園南海は紀伊藩の儒学者で、
漢詩文などをよくした人物で、日本の初期の
文人画家としても知られる。

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 十二客とは、中国・宋時代の張景修という
人物が選んだ十二種類の名花のことです。
 それぞれの花に一章の詩が賦されました。
 その内訳は、貴客(牡丹)・清客(梅)・寿客(菊)・
佳客(沈丁花)・素客(丁字)・幽客(蘭)・静客(蓮)・
雅客(頭巾薔薇)・仙客(金木犀)・野客(薔薇)・
遠客(茉莉花=ジャスミン)・近客(芍薬)の
十二種類です。
 この絵にはそれらが全て描かれていますが、
どれがどの花かお分かりでしょうか。
描いたのは和歌山出身の岡本緑邨(1811〜81)
という画家です。
花鳥画に優品が多く、名古屋の画家・山本梅逸
などからの影響が感じられます。