展示のみどころ


 今回の企画展で展示される資料は、県立図書館と県立博物館で管理している資料のうち、貴重な楽譜を中心に展示し、ヨーロッパの音楽史をたどれるようにしています。

(1)H.パーセル(1659-1695):オペラ《ディドとエネアス》
     Z.626(筆写楽譜)

 パーセルは、イギリスにおけるバロック時代の最も重要な作曲家。イギリス王室の作曲家やウエストミンスター寺院のオルガニストとして活躍した。この歌劇は、1689年にロンドンで初演されたもので、厳密な意味でパーセル唯一の歌劇とされる。自筆譜は残っておらず、この筆写譜が最も重要な資料となっている。南葵音楽文庫には、イギリスの作曲家の楽譜が多く含まれている点が特徴であり、その代表的な資料といえよう。


↑クリックで拡大

 

(2)J.S.バッハ(1685-1750):
《クリスマスの讃美歌「高きみ空より我は来たりぬ」によるカノン風変奏曲BWV769》(刊本)

 バッハはプロテスタント教会(ルター派)の礼拝ために、200曲もの教会カンタータ(器楽伴奏つきの声楽曲)を作曲しているが、その中のルターによるコラール(賛美歌)をもとにオルガンの変奏曲に編曲した作品。1747年にドイツ・ニュルンベルクで出版された初版で、世界で十数点しか残されていない希少本である。上段が鍵盤、下段がペダルの楽譜となっている。


↑クリックで拡大

 

(3)L.v.ベートーヴェン(1770-1827):
  シラーの頌歌「歓喜に寄す」による終楽章合唱つき交響曲(第9番)Op.125(刊本)

 いわゆる「第9交響曲」の初版楽譜である。1824年5月にウィーンで初演された交響曲は、同年7月にドイツ・マインツのショット社が出版を受託した。作品の献呈先が決まらなかったため、出版が延期されていたが、ショット社は1826年7月にはベートーヴェンのメトロノーム記号の指示がないまま印刷作業に入っていた。同年10月にベートーヴェンからの指示を受けて、1827年1月にメトロノーム記号の入った初版増刷が世に出される。南葵音楽文庫の初版にはメトロノーム記号が入っていないため、最も早い段階の印刷楽譜ということになる。


↑クリックで拡大