木製五輪塔
 (和歌山県教育委員会蔵)

  五輪塔とは、一般的には、亡くなった人の供養のために造立する石造の供養塔のことをいい、下から、地・水・火・風・空輪の五つの部分からなるために、五輪塔と呼ばれる。地・水・火・風・空は、密教において、万物を造り出す元素とされ、中国からもたらされた思想を日本において独自に造形化したものと言われる。
  この木製五輪塔は、根来寺旧境内の西に位置し、その防御を目的に造られたとされる西山城の東側の堀跡から出土したもので、全体の長さは19.0pを測る。西山城は、戦国時代の末期まで機能したと考えられているので、堀の機能が停止して以降、堀が埋没する過程で堆積した土砂の中から出土したこの遺物が使われていた時代は江戸時代以降ということになるが、この土砂の中には中世以前の遺物も含まれており、にわかに江戸時代の資料と判断するのは早計だろう。五輪塔じたいは近世に入ると急速に減少するので、むしろ、中世根来寺周辺の素朴な庶民信仰の遺物と考えられよう。



瓦質火舎
 (和歌山県教育委員会蔵)

 火舎とは蓋付きの香炉の一種で、密教において、様々な法要を行う時に使用する仏具のひとつである。日本に伝来した当初は、宮中などにおいて火鉢などとして使われていたものが香炉に転用され、これを小型にしてさらに蓋をつけたものを火舎と呼ぶようになったと言われている。
 この瓦質火舎は、菊花文をスタンプのように捺して装飾し、縦目に粗くヘラで磨きをかけているもので、口縁部はヨコナデで仕上げている。根来寺旧境内の内で東へ延びる菩提院谷の谷筋に沿った第]地区と呼ばれる地点の、室町時代の遺構から出土したものである。この遺構の上層に豊臣秀吉の根来攻めの兵火によって焼けた焼土層が覆っていることから、天正年間以前に使用されていたことが明らかな遺物である。仏具であることから、何らかの僧房的な建物があったものと推定されるが、付随する建物の遺構は比較的簡便なもので、行人層の僧房であった可能性が高い。



備前焼徳利
 (和歌山県教育委員会蔵)

 備前焼とは、現在の岡山県備前市周辺で焼かれていた陶磁器の総称で、比較的大型の日用雑器を多く生産していたことで知られる。根来寺の旧境内では二石〜三石入りの大型の甕(大甕)が多数出土している。
 この徳利は、根来寺旧境内のうち北へ延びる蓮華谷の谷筋で、SV−28と呼ばれる石垣の西側の焼土層から出土した徳利である。周辺には礎石立ちの建物や石組みの溝、井戸、石垣などの遺構があり、豊臣秀吉による兵火で消滅した遺構と、それ以前に埋没していた遺構の二時期の遺構があり、この備前焼徳利は兵火時の焼土層から出土した遺物であるので、兵火の時点で使用されていた遺物ということになる。同じ場所から同様の徳利が他に3口、また茶臼や燭台、白磁皿などが出土している。