主な展示の紹介


 

 十一面観音立像(じゅういちめんかんのんりゅうぞう)

  像高182.4㎝ 平安時代(12世紀)

紀の川市・西山観音堂蔵(地蔵寺管理) 紀の川市指定文化財
 

 昨年から今年にかけて、和歌山県では岩出市・紀の川市・和歌山市の10か所の寺院で60体以上の仏像の盗難被害が発生しています。紀の川市・西山観音堂の本尊、十一面観音立像は、今年3月に盗難被害に遭い、その後の警察の捜査とともに、被害を伝えたNHKによる報道も功を奏して、6月に所在を確認して取り戻すことができました。優れた作行きを示す平安時代後期の等身像を寺外初公開します。

 

 阿弥陀如来坐像(あみだにょらいざぞう)

  像高55.8㎝ 平安時代(10~11世紀)

  和歌山県立博物館保管
 

 平成22~23年に盗難被害に遭い、警察によって売却先から回収されたものの、所蔵者が不明のまま取り残された文化財43点のうちの一つで、平安時代中ごろに作られた古い仏像です。銘記から天明7年(1787)に台座と光背が「野上下津野出生当寺現住真性」を願主として造られたことがわかります。海南市下津野地区では盗難被害は報告されていませんが、周辺地域に伝来した可能性があります。

 

 香炉(こうろ)

  高18.6㎝ 昭和38年(1963)

  かつらぎ町・遍照寺蔵(和歌山県立博物館保管)
 

 盗難被害に遭ったのち、警察によって回収された、所蔵者不明の文化財の一つで、獅子の飾りを上部に表した真鍮製の香炉です。背面に刻銘で「東谷/垣内什物/昭和三十八年秋之作」と記されています。このたび、かつらぎ町東谷地区の通称「東谷垣内」内に所在する遍照寺の調査を行ったところ、同寺は平成22年に盗難被害に遭っており、堂内に同じ銘文が刻まれた燭台と華瓶が見つかり、本来の所蔵者と判明しました。

 

 愛染明王立像(あいぜんみょうおうりゅうぞう)
 (左:実物 右:3Dプリンター製の複製)

  像高52.9㎝ 江戸時代(17~18世紀)

  紀の川市・円福寺蔵
 

 通常は座った姿の愛染明王像が、立った姿で表されている特殊な作例です。平成22年10月に円福寺で盗難被害に遭った仏像11体のうちの1体で、転売され犯人逮捕後も行方不明でしたが、平成25年に古美術商のオークションカタログに掲載され、買い戻すことができました。管理の困難さが解消されないことから、実物は博物館で預かり、和歌山県立和歌山工業高等学校と協力して製作した3Dプリンター製のお身代わり仏像を現地に安置しています。

 

 十王図(じゅうおうず)

  元時代(14世紀)もしくは南北朝時代

  有田川町・浄教寺蔵(有田川町) 和歌山県指定文化財


 

 各幅の画面上に「慶元府車橋石板巷陸信忠筆」と記され、中国・寧波の画工陸信忠の作と伝える十王図です。画絹の著しい劣化や墨染めの肌裏紙などによって表現が損なわれていましたが、平成29年度に修理を行い(施工:藤岡光影堂)、鮮やかな彩色が甦りました。制作地については更なる検討が必要ですが、元時代の絵画の可能性が高まったといえるでしょう。第一秦広王から2幅ずつ、9/1~7、9/8~14、9/15~21、9/22~28、9/29~10/4の会期で展示替えを行います。

 

 熊野観心十界曼荼羅(くまのかんしんじっかいまんだら)    

  縦136.9㎝ 横123.6㎝ 江戸~明治時代(19世紀)

  上富田町・観音寺蔵
 

 熊野の入り口、口熊野地域で見いだされた新資料です。薄手の紙を横に5紙、縦に6段張り重ねて作った本紙に、熊野観心十界曼荼羅の定型に従って、素朴かつ味わい深い筆致で描いています。文久2年(1862)に観音寺に入寺した智誉弁良(1828~98)が製作に関与しているとみられ、製作時期もその活躍期に比定されます。表装が破れ本紙にも甚大な折れや破れが生じていたため、本年修理を行いました(施工:北山表具店)。初公開。

 

 風神像(ふうじんぞう)

  像高67.5㎝ 江戸時代(18世紀)

  紀の川市・粉河寺蔵
 

 粉河寺本堂(重要文化財)の内陣に並ぶ、千手観音の眷属、二十八部衆像のうちの1体です。京都・三十三間堂に安置される二十八部衆像を模したもので、洗練された出来映えを示す優れた近世彫像です。本堂が再建された享保5年(1720)頃の造像とみられます。平成28年10月に、左足首の矧目が経年の劣化によって破断し、前方に倒れて破損しましたので、平成29~30年に本体・台座の矧部の緊結、彩色の剥落止めを行い像の安定を図りました(施工:泉企画)。他の二十八部衆像についても順次修理に取りかかっています。寺外初公開。