日本霊異記と紀伊国


平安時代初頭に成立した『日本霊異記』は、善悪に相応の報いがあることを語る霊異譚を編集した仏教説話集である。編者である薬師寺の僧景戒は、紀伊国名草郡の出身を考えられており、奈良時代の紀伊国を舞台とした説話が数多く収録されている。説話の内容は史実だけではないが、当時の原初的な仏教信仰の実状だけでなく、寺院の私出挙や漁民の様子など、村落を中心とした社会や民衆の実態を反映した貴重な情報を現在に伝える。