一遍と熊野


時宗の開祖となる一遍(一二三七〜一二八九)は、文永一一(一二七四)年、生国伊予を後にして、高野山を経て、熊野三山に向かう。本宮の社頭で山伏の姿をかりた熊野権現から神託をうけた彼は、新たな念仏思想を感得し、悟りを開く。これで一切の迷いを捨て去ることができた彼は、名号札を手に諸国を廻り、念仏を勧め歩いたのである。この「一遍熊野成道」の様子は、弟子の聖戒が完成させた「一遍上人絵伝」の中に、克明に写しとられている。